アメリカにおけるワクチン普及と地域格差が示す多様な医療体制の実態

予防接種の普及や感染症対策において、世界の医療事情をけん引する国のひとつが西半球の大国である。その国では多くの先進的なワクチンが研究されてきた背景を持ち、また予防接種政策と医療体制が複雑に絡み合っている。一般に、予防接種プログラムの発展や感染症制御のための国策が、医療そのものの在り方にも影響してきた事実は見逃せない。そうした事情を語るうえで、広大な国土を持つ同国の医療現場が直面してきた、ワクチン普及の課題や医療アクセスの違いについても触れる必要があるだろう。まず、医療機関や予防接種の制度の特徴として、広範囲な地方分権が挙げられる。

それぞれの州が医療や公衆衛生に関する権限を大きく持つ仕組みとなっており、ワクチンの種類や接種間隔、対象となる年齢などが場所によって微妙に異なることも珍しくない。感染症の集団発生時などには、連邦機関が一定の指針を示すものの、最終的な現場の方針決定や接種体制づくりは州ごとの判断に委ねられている。この体制が奏功し自治性や柔軟さを保っている反面、接種率や感染症対策の地域差という課題も生んでいる。感染症予防の観点から重要視されてきたのが、学校入学前に必要な予防接種である。大多数の州では、小学校への入学や幼児保育施設の利用にあたって特定のワクチン接種証明を提出することが求められる。

一般的な定期接種の対象は、麻しん、風しん、ポリオ、百日ぜき、ジフテリア、破傷風、髄膜炎など幅広いものであり、小児に対して早期から多種類のワクチンがスケジュールされている。ただし宗教的信念や医学的な理由による免除が一定の条件下で認められていることで、完全な義務化とは言い切れないのが実情となっている。ワクチン接種政策は政策のみならず医療制度そのものとも大きく関わる分野である。同国の医療費は世界的に見ても極めて高額であり、個人が受ける医療の多くが民間保険に依存している現実がある。感染症対策や公衆衛生の分野だけは例外的に政策的な配慮がなされており、乳幼児の予防接種は連邦や州の補助によって広く無料で受けられる場合が多い。

しかし大人向けの任意接種、自費診療でのワクチンは決して安価とは言えず、経済格差が各地域の集団免疫に影響を及ぼしているとの指摘が専門家からなされている。こうした事情により各地域や所得層ごとに予防接種率がバラついてしまうことも、実際に見られる現象である。その一方で、医学的な研究開発において世界をリードしてきた事実も評価されるべきだろう。米国内で開発・承認されたワクチン技術が、他の国々に供与されたり世界的な感染症流行時に利用されたりすることで、グローバルな公衆衛生に寄与しているのは事実である。大規模な臨床試験や新規ワクチンの開発、また流行状況に応じた改良型製剤など、積極的な研究投資と迅速な実用化が行われてきた。

公的機関や大学、民間企業が連携し、世界的パンデミックに対して中央集権的な組織よりも迅速に実用的な対応を成し遂げてきたことは注目に値する。他国の医療事例を見ると、他国に比べ選択肢が豊富でありワクチン=国家事業という位置づけよりも民間の力を活かす姿勢が見て取れる。その結果、旧来の予防接種にとどまらず、がんや自己免疫疾患など新しい医療分野向けに応用が始まっている事例もみられる。さらに遺伝子工学や情報解析といった新技術の導入が、より短期間で多様なワクチンを生み出す助力となっている状況もある。ただし情報の多様化と強い個人主義文化により、ワクチンに対する不信や根拠の薄い風説が広まることもあり、医師や公衆衛生当局は信頼醸成を目的とした啓発活動に力を入れる必要に迫られている。

こうした啓発プログラムや学校教育、メディアとの協力などを通じ、感染予防の大切さやワクチン安全性に関する情報を定期的に提供している。一方で社会的・政治的立場の対立や経済的要因などにより、ワクチン推進策に統一見解を持つことが簡単でないのも事実である。以上のように、広範な医療体制、積極的な感染症対策、ワクチン研究開発の実績、そして多様な選択肢の存在は大きな特色となっている。それと同時に、医療現場での貧富・都市農村による格差、個人の意識によって左右されるワクチン接種率といった課題もなお克服途上である。今後も幅広いイノベーションと多様な価値観のはざまで、柔軟かつ現実的な感染症対策や医療体制づくりが期待されている。

本稿では、アメリカ合衆国の予防接種政策や医療体制の特徴、その課題について幅広く論じられている。アメリカは先進的なワクチン研究と開発をリードしてきたが、広大な国土において医療や公衆衛生が州ごとに分権的に運営されているため、ワクチン接種の要件や実施体制にばらつきが生じている。多くの州で学校入学時に複数の予防接種が求められ、集団免疫の確保が図られているものの、宗教的・医学的理由による免除規定や個人主義の影響から接種率の向上には一定の限界がある。医療費が非常に高額で、民間保険に依存する部分が多い一方、乳幼児への接種には公的負担が及んでいるが、成人向けなど経済的格差による接種率の差も課題となっている。しかし、公的・民間の連携による迅速な新ワクチン開発や、グローバルな公衆衛生への貢献度は大きい。

情報の多様化と個人主義がワクチン不信を助長する懸念もあり、啓発活動の重要性も高まっている。アメリカの医療体制は多様な選択肢を提供しつつ、都市農村や所得による格差といった現実的課題に今後も柔軟に対応していく必要がある。